
――グローバルリーダーを目指す人に対し、ビジネススクールはどのようなサービスを提供できるとお考えですか?
遠藤 ビジネススクールは、異質と出会うところだと考えています。会社では接することのない、多種多様な人々(=異質な価値観)との出会いを生み出し、「自分がいかに狭い世界に生きていたかを自覚する」質の高い場を提供する。それこそが、ビジネススクールに通う最大の意義だと思います。
林 フレームワークを活用した情報の構造化・分析や、論理思考をベースにしたファシリテーション力、プレゼンテーション力の向上など、いまや世界のビジネスパーソンの“共通言語”となっているスキルは、もちろん体得できます。グロービス経営大学院(以下、グロービス)には英語のMBAプログラムもありますので、ビジネスの現場における議論を英語で仮想体験することもできます。
ただ、それ以上に大きな意義は、自分自身が何のために、またどのようにして生き、社会に価値を創出していくかという、ビジネスリーダーとしての志、世界観のようなものを育む機会となる点にあるのではないでしょうか。異なる環境から来た学生同士が競い合い、厳しく評価されることで、マインド面も鍛えられます。
三谷 K.I.T.虎ノ門大学院(以下、K.I.T.)の場合、早稲田大学ビジネススクールやグロービスとは違って少人数制なので、少し事情は異なるかもしれません。ただ、先ほどの「異質との出会い」、「スキル・マインドの強化」などは同じですね。
生徒数が少ない分、教員の4分の3を外部の人で構成し、普段会えないような人との出会いを提供しています。クラスも教員1名に対して生徒は平均10名前後。教員と生徒の距離が極めて近いのが最大の特長でしょう。
――上記のような体験やスキルの向上は、ビジネススクールでなければ望めないのでしょうか?
三谷 そうとは限りません。ビジネスマインドは、(例えばフレームワークのような)特定の考え方のもと、思考・思索を繰り返すことで鍛えられます。それはビジネススクール以外でもできますよね。
ただ、一人きりの自己研鑽だと、どうしても考え方に偏りがでてきてしまうのが現実。そうならないためには、勉強会を開くといった、集団での取り組みが必要です。たいていの仕事はチーム単位なことからも分かる通り、トレーニングの段階からチームで行っていた方が、後で実務に応用させやすいのです。
林 わたしは、近年活躍しているグローバルリーダーの共通項として、「リスクを取れる」という点があるように観察しています。そこで、リスクを取るのを嫌がる人と、進んでリスクを取る人の差異を分析したところ、浮かび上がってきたのが「成功体験の有無」でした。
つまり、成功体験がある人は「頑張れば何かができるようになり、できるようになれば報酬を得られる」ことを知っているため、リスクを取って何かやってみることを厭わない。でも、成功した経験のない人は、それがイメージできないから踏み出すモチベーションを持てないんですね。
ですから一つには、小さなことでも良いので、日頃からチャレンジ精神を持って物事に挑み、成功体験を積み重ねておくといいかもしれません。
遠藤 何事も実践をしてみないことには、身に付きませんよね。それはビジネススクールでも同じです。ただ学ぶだけでは意味がない。学んだり、分析したりするのはあくまでも入り口であって、出口は実践なんです。にもかかわらず、最近の学生には“分析屋”で終わってしまう人が多い。分析ができればマネジメントができるわけではなく、行動があってこそマネジメントが可能になることを常に意識しておいてほしいですね。
三谷 仕事をしながらパートタイムのビジネススクールに通う生徒より、仕事を辞めるか休職するかしてビジネススクールに通うフルタイムの生徒の方が、遠藤さんがおっしゃった“分析屋”になってしまう危険性が高いかもしれませんね。
遠藤 そうなんです。皆、ビジネススクールで学んだことが身に付いていないと感じたとき、解決の糸口を見つけようとさらに勉強をするんですね。しかしそれは、勉強の出口を勉強に求める悪循環に過ぎません。そのせいか、日本にはなんとなくもんもんとしている生徒が多い。この「もんもんとしている」というのは、日本的MBAの特徴かもしれません(笑)
だからわたしは、本の受け売りをしているような学生にはあえて、「これ以上本は読むな!」とはっきり言います。ビジネスは結局のところ帰納法でしか理解できないものです。本を読んで演繹的に理解することはできない。
林 遠藤さんのおっしゃっていること、すごくよく分かります。確かに、手段を目的化してしまっている人は多いかもしれませんね。
三谷 「マインドマップ」も、その一つかもしれません。描くことに一生懸命になって、図を完成させただけで満足してしまう場合が多いように感じます。
修士号の取得に関しても同じことが言えると思います。ビジネスパーソンにとって、修士論文を書き、修士号を得ることは目的ではない。アウトプットは常にビジネスの現場であるはずです。
遠藤 ビジネスにおいて、「ロジックは所詮レトリックだ」ということです。それを忘れてはいけない。
林 研究を重視するか、実践を重視するかは、各ビジネススクールが目指しているものによって異なります。「経験を体系化する」研究は研究で重要だと思いますが、もし学んだことのアウトプット先を企業に求めるのであれば、その目的に合ったスクールを調べ、選ぶことがまずは重要ですね。
――では、日本からより多くの「海外人材に負けない人」を輩出するために、これから日本のビジネススクールはどのような取り組みを行っていくべきでしょう?
三谷 これから、働くポストをめぐる人材間の競争がますます激化するでしょう。そこで日本人が勝負すべきは「独創力」ではなく、協調と発想と実行を兼ね備えた「共創力」だと思います。優秀でモチベーションにあふれた海外人材たちに勝つにはそれしかない。
K.I.T.はそこに注力したいと考えています。異質を受け入れ、議論する力。皆の考えを取り入れながらも新しいものを生み出す力。それらをこの私塾的な環境を通して、社会人たちに身に付けてもらいたいと思います。そういう大きな変化に向って、すばやく対応していけることも、われわれK.I.T.虎ノ門大学院の強みです。
遠藤 ビジネススクールが「異質と出会う場」であるべきという考えに変わりはありません。今後はさらに日本人と外国人をひっかき回すことに力を注ぎたいですね。
日本人と中国人の合同合宿を企画したり、海外のビジネススクールと交換留学できる機会を増やしたりと、生徒が異質とうまく遭遇し、自己変革する場を演出してあげられるプロデューサーとしての役割を、これからの日本のビジネススクールは担うべきだと思います。
林 わたしも海外の人をいかに取り込むかが、カギだという考えです。グロービスに関して言えば、英語の全日制(フルタイム)のコースを2012年からスタートします。ここには海外から多くの留学生を受け入れる予定です。
しかし、ただコースを設けても留学生は来てはくれません。日本ならではのコンテンツを整備することもそうですし、彼らがビジネススクールを卒業後、日本で働くための受け皿を用意しておくといった、キャリア面での支援体制を整えておく必要があると認識しています。
――ビジネスパーソンにしろ、ビジネススクールにしろ、今まで日本は常に「欧米型」になることを求めてきました。しかし、これからは独自の利点を活かせる道を選択し、誰の真似でもない「日本型」を目指すことが肝要だということを、今回の座談会を通して知ることができました。ありがとうございました。
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